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ヒトカラマニア

…ですが、今は体のメンテナンスの優先順位が高くなってしまい、あまりヒトカラに行けてません/(^o^)\

小説『彼女はスリーピング・ビューティー』第5回(全9回)
2015-09-30 19:55







画像はイメージです。









小説『彼女はスリーピング・ビューティー』(便宜上、第5回)









 自分のロッカーをあけ、とびらの裏の鏡を見ながら制服のリボンをほどく。鏡に、自分の赤い顔がうつった。
「まあどうしましょう」
 目や唇に、浮き浮きした気分がこみあげてくる。
「豊田さんとお食事だなんて」
 双葉はベストを脱ぎ、スカートを脱ぎ、ブラウスを脱いだ。
 私服のワンピースを着ると、ベストとスカートとリボンをていねいにハンガーにかけ、ブラウスはていねいにたたんでバッグに入れた。
 ティッシュで鼻の脂をおさえ、パウダーファウンデーションをはたいた。
 ブラウンのアイシャドーをまぶたのふたえの部分にうすく入れた。
 最後にピンクの口紅をひきなおした。
 双葉はバッグのなかの細々としたものをきれいに詰めなおし、コートを着ると、ロッカーのとびらをぱたんと閉めた。
 一連の動作のあいだじゅう、彼女の顔には微笑みが絶えなかった。

 双葉はこびりついたファウンデーションの粉を落とすために洗面所で手を洗ってから、営業部のオフィスに戻った。
 ブラインドをおろしていない窓が、夜の暗さのために鏡のようになって、オフィスの様子を映しだしていた。
 残っていたのは豊田ひとり。
 彼は窓際で、外の景色を見ながら煙草を吸っていた。
 豊田の視界に、ビル街の景色と二重写しになっていたオフィスのドアから、ピンクのワンピースを来た双葉が現れたのだ。彼はハッとして振り返った。
「やあ、かわいいね」
 双葉は赤くなった。恥ずかしいので、床を見ながら、
「豊田さん、もうお仕事おわったんですか。お早いんですね。お待たせしちゃったかしら?」
と言った。
 豊田はふっと笑って、あらためて双葉をまじまじと見た。終わったもなにも、1日の営業活動の報告書というのは、双葉もしょっちゅう目にしていて、作成に時間を要するものではないということは知っているはずなのだ。豊田が「ゆっくり支度してきてね」と言ったのは、双葉を急がせてはかわいそうだという配慮からだったのだが、彼女は文字どおりにしか受け取っていない。
 そういう双葉の愚鈍なところを豊田はよくわかっていて、それでもなおかつ、そこが可愛いと思うのだった。
「だいじょうぶ待っちゃいないよ。さあ、行こう」

 豊田が案内したイタリアン・レストランは銀座にあった。










つづく。











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