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ヒトカラマニア

…ですが、今は体のメンテナンスの優先順位が高くなってしまい、あまりヒトカラに行けてません/(^o^)\

小説『kaori』第8回(全8回)
2016-01-06 23:50







画像はイメージです。









小説『kaori』(便宜上、第8回)









「私、できないわ!」涙と一緒に、勢いよく答が出た。
「そんなふうに生命を軽く扱うわけにはいかないわ。…もちろん康徳と私の間に何の障害もなければそれにこしたことはないけど……障害はあってもいいの。一緒にいられれば。………それがいちばん大事なことだから。…むしろ、男と女のつながりって、一緒に障害を乗り越えてこそ、はじめて本物になると思うもの……」
 涙で顔がぐしゃぐしゃになった。
 その人は、傷ついたように言った。
「愚か者め……後悔するなよ」
 その人は現れたときと同じように、いつのまにか人込みの中へと消えて行った。
 とたんに激しい頭痛がしてきて、意識が遠くなってきた。ワタシハオロカモノナンカジャナイ。ケッシテコウカイナンカシナイワ……………。


 目を開けると、白い天井と、愛しい人の顔が見えた。
「香!」
 いきなりぎゅっと、康徳に抱きしめられた。
 「香、香……ああ、よかった……死んじまうかと思った」
 「やすのり……」
 私は穏やかな気持ちだった。でも康徳は興奮している。
「覚えてるかい? 事故にあったんだよ。酔っ払い運転の対向車がこっちの車線に入ってきて、避けようとして運転手さんがハンドルを左に切ったところに後続車がぶつかったんだ。君は4日も眠っていたんだよ……」
「他にけが人は…?」
 康徳は眼を丸くした。
「君はなんてやさしいんだ。そういうところが本当に好きなんだ。……タクシーの運転手さんが肋骨を1本折って、あとは全員かすり傷。酔っ払い運転してた奴がなんともないのに、君だけ頭を強く打って意識不明だなんて、…………もし君があのまま死んでしまったら、僕がそいつを殺してやるところだった」
 康徳は私の頬を撫でた。包帯の上から撫でられる感触がして、左頬に鈍い痛みがあった。でも、とても幸せ……。


 それから1年。
 ひろ子ちゃんと和美くんは、あの後しばらく山之内氏のいやがらせに苦労していたけれども、そのうちひろ子ちゃんが家から勘当されたような形になると、いやがらせも止んだ。
 康徳と私は一緒に暮らしている。あの5カ月後に離婚が成立した。彼は多額の慰謝料を支払ったが、奥さんは会計士の資格を生かして働き始めた。子どもたちは奥さんが引き取った。彼は、月に1度、子どもたちに会う。
 毎月支払う養育費のために、以前のような贅沢はできなくなった。「でもそんなことはたいした問題じゃないわ」と私が言うと康徳は「君は本当にやさしい人だ」と言う。
 事故の後遺症はないけれど、私の左頬にはわりと目立つ傷が残った。「でもそんなことはたいした問題じゃない」と康徳が言う時、本当に彼に対する尊敬と、そして安心感が湧いてきてしまう。
 昏睡状態の4日間に見た夢のことは誰にも話していない。今思うと私はあの時、生かすか死なすかのテストを受けていたような気がしてならない。運命をつかさどる絶対者によって。










おわり。









「1989年1月4日(水)5:56AM」と原稿用紙に鉛筆(またはシャープペンシル)で書かれています。
タイトルは書かれていません。
そこで、ブログに掲載するにあたって、
主人公の名前をローマ字表記してタイトルとするという
無難な対策を取りました。

当時の私は、
星新一さんになりたかったんですかね(・ω・)

それか、
赤川次郎さんになりたかったのか(・ω・)









『アンガージュマンの入口』はかなり私の経験に基づいていますが
『彼女はスリーピング・ビューティー』と本作はフィクションです。












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小説『kaori』第7回(全8回)
2016-01-03 23:50







画像はイメージです。









小説『kaori』(便宜上、第7回)









 黒っぽい流行のファッション、顔つきは賢そうで、彫刻のように美しい。
「あなたは誰?」
 その人は自信に満ちたほほ笑みを見せて答えた。
「…私は四次元の世界を操ることのできる者です。貴女にご相談があってやって来ました」
「…………」
 頭がぼおっとする。その人が何かとてつもなく奇妙なことを言っているとは思うのだけれど、…反論できない! なぜか、有無を言わせない調子がある。
 おもむろに彼は言った。
「貴女の彼の過去を操作してあげましょうか?」
「え?」
「貴女の彼の過去をかえるんです。5年前に戻って、結婚しなかったことにする。いかがですか? そうすればあなたがたは不倫ではなくなりますよ」
「! ……そんなことができるの?」
 彼は妖しげにわらった。
「できますとも」
 …………ずっと、こんな幻を追っていた。出会ってからずっと。もしも5年前にめぐりあえていたならと、2人とも……。
 それが今、どういうわけかわからないけれど、実現しようとしている……。
 そう思った次の瞬間、私ははっとした。
「もし……、もしそうなった場合には、彼の子どもたちはどうなるの?」
 その人は、初めて表情を硬くした。
「もちろん生まれません」
「!………」
 私は青くなってふるえ出した。そんな……、そんなこと私には……。
「どうしますか?」男が私を促す。
「ちょっと待って」
「待てません。10かぞえる間に決め手ください……ひとつ…」
「!」
 どうしよう。
「ふたつ……」
 私、すべてを精算して康徳と一緒になりたい。
「みっつ……」
 だけど、今は存在している小さなふたつの生命が、私の決断によって消えてしまうとしたら……。
「…いつつ………むっつ……」
 だいいちこの人は信用できるの?
「……やっつ……ここのつ……」
 ああ、混乱する。康徳、私、私……。
「…とう」










つづく。












『100分de名著』「サルトル”実存主義とは何か”」最終回を観ました。
2016-01-02 23:50






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2015年12月2日にNHK Eテレ札幌で放送された
『100分de名著』「サルトル”実存主義とは何か”」最終回を
録画で、先日、観ました。




すると、「アンガジュマン」という言葉が解説されていました。

「人間は、社会や状況に、すでに巻き込まれている。だから、何らかの選択をせねばならない」




私が北海道に移住したのも、
消極的ではありますが「選択」ですから「アンガジュマン」と呼べるかもしれません。

あと、
ツイッターで、放射性物質に関する情報を見つけた時に
「リツイート」や「いいね」をするのも
消極的ではありますが「アンガジュマン」かも。

選挙での投票は、ハッキリと「アンガジュマン」ですね\(^o^)/









自分が1986年に『アンガージュマンの入口』という小説を書いているので
この回はとても興味深く観ました。












小説『kaori』第6回(全8回)
2015-12-28 23:50







画像はイメージです。









小説『kaori』(便宜上、第6回)









 驚いて頭がガンガンする。
「嘘………」
「嘘なもんか」
「あなた、そんなに私のこと好きだったの?」
「好きだったよ。知らなかった?」
 涙が出た。
「うれしい……」
 康徳は改めて私の手を強く握った。そして大きな目で私を見た。
「きっといろいろ苦労をかけると思うんだ。まず離婚しなきゃならないし、子どものことをどうしたらいいかわからないしね……。だけど悪いことばかりは続かないよ」
 その後の康徳の言葉を、私は夢見心地で聞いた。「たしかに君の言うとおり、全面的なハッピーエンドは無理だろうね、当面は。だけど、事情はどんどん変わっていくものだよ。ねえ、僕はこう思うんだ。親と子のつながりは一時的なものだが、男と女のつながりはもっと長い。僕は妻と結婚している境遇で君と出会ってとても悩んだけれど、まだやり直しがきくと思うんだ。………きっと、今度こそベストを尽くせるよ」

 カフェバーをでて、寒い街路をふたりで歩いた。私は幸せで浮き足立っていた。康徳は私の肩をぎゅっと抱いて言った。
「君が好きだよ、香。僕はどうしようもない男だけれど、ベストを尽くすことだけは約束するから嫌いにならないで」
「嫌いになんて、なるもんですか」
 ひとごみの中で強く唇を吸いあった。
「愛してるよ…」
「私も……」
 私はショルダーバッグを肩にかけなおした。そして腕時計を見た。12時12分だった。「じゃあ、今日はこれで」
「うん。タクシーを拾ってあげるよ」
 康徳が拾ってくれたタクシーに乗った。
「新井薬師のほうへお願いします」
と康徳が運転手さんに言ってくれた。
 車が動き出す。私は後ろのガラス窓から康徳に手を振った。彼も大きく手を振っている。
 と、突然康徳の表情が変わった。と思うとハンドルが左に切れたような衝撃があって、耳をつんざくような大きな音がして、私は気を失った。


 気がつくと、もといた街路に立っていた。
「どうなってるのかしら?」
 腕時計を見た。12時12分だ。
 不安になった。康徳はどこ? それにタクシーは?
 私の疑問に答えるようなタイミングで、人の流れの中からある人物があらわれた。
「康…徳……?」
「はじめまして」
ぞっとするような美声だった。その時1台の車が通り、それまで逆光で見えなかったその人の姿をヘッドライトで照らした。










つづく。












小説『kaori』第5回(全8回)
2015-12-26 23:50







画像はイメージです。










小説『kaori』(便宜上、第5回)









「私の友だちのひろ子ちゃん知ってるでしょう?」
「うん」
「彼女がかけおちしちゃったの」
「うん」
「親の決めた婚約者がいたのよ。結納まで済んでいたのに」
「前の彼氏とよりが戻っちゃったとか?」
「ちがうの。前の彼氏とかじゃないの。同じ高校だった人なんだけど、一度もつきあってたことはなかったの」
 ウエイターがさりげなく、彼の前にマルガリータを置いた。このウエイターは慣れている。大勢の客が、聞かれてはまずい話をささやきあうのを見てきたのだろう。無関心をよそおってさっと身を引いてゆく。私は続けた。
「高校時代に彼女がその人に片思いしてるの知ってたわ」
 ああ……。あの頃の記憶がよみがえる。
「でも告白はしなかったの。その人にはつきあってる娘がいるって思い込んでたから。だけどそれは誤解だったってことが最近わかったんですって。劇的でしょう?」
「そうだな」
 康徳も心持ち元気がなくなってきた。話の流れが見えてきたのだろう。
「ふたりは両思いだったのよ。それが、ひろ子ちゃんの結納のあとでわかったんですって」
「偶然再会したのかい?」
「そう。仕事関係でね。びっくりしたそうよ。ひろ子ちゃんは高校を出たあともずっと、他に好きな人ができなくて……」
「その彼を忘れられなかったから?」
「まあね。だけど片思いだからって、パパやママが強気でおし進めた縁談に乗っちゃったところだったのよ。バッドタイミングでしょ?」
「そうだな………だけど」
 康徳が何を言いたいのかはわかっていたけど、私は彼をさえぎって言った。
「婚約者がすごいお金持ちでプライド高くて、和美くんの将来を邪魔してやるって言ってるの。あ、その、ひろ子ちゃんの彼が和美くんっていうんだけど」
 康徳もため息をついた。
「バッドタイミングか……。神様はひどいな」
「ええ。まわりに反対されてるような恋は、全面的なハッピーエンドは無理なんだって、私もよくわかったわ。あちらを立てればこちらが立たず…ってわけなのよ」
「香……」
 康徳は私の手をとり、強く握りしめた。
「香、僕はどうしようもない男だけど、許してくれるかい?」
「え、どういうこと?」
「結婚しよう、香」










つづく。